著者インタビュー
研究室には「いらないもの」が詰まっている!?ニッチでも切実、研究室・ラボ専門の整理本を出版
正保美和子(しょうぼみわこ)
製薬会社で研究員として31年
大学や研究所専門の片づけ師?
薬品やビーカー、試験管、何に使うかわからない特殊な機械、山積みになった研究資料、ネズミやホルマリン漬けのさまざまな……。と想像が膨らむ「研究室」ですが、その研究室やラボに特化した専門の整理収納のコンサルティングをしている正保美和子さんが『研究者・技術者をボスにもつ人のための ラボ整理コミュニケーション術』を出版。
そんな正保美和子さんに、ウェブ上で本が作れる「Booko」を活用した経緯を伺いました。
正保美和子さんは大学卒業後、製薬会社で31年間、基礎研究部門で研究員をしていました。50歳で医学博士号を取得、医学部大学院研究室で研究補佐をしたあと、現在は国立研究所で非常勤の研究業務員をしています。
研究補佐や研究業務員という仕事は研究のサポートをします。実験してデータを取ったり、分析したり。場所によっては研究室にあふれかえるモノの管理も大事な業務といいます。
長年の仕事の経験から、研究室を片づけるのは至難の業であると痛感しつつも、片づけることで研究効率が確実に上がるということも実感しています。そんなモヤモヤを抱えてきた正保さんは、なんとかして研究所や大学ラボの抱える「片づかない問題」の役に立てればと思い、整理収納アドバイザーの資格まで取得したのです!
研究補佐をしながらラボの整理収納も
研究室の課題を知っているから書けること
片づけで「お金」「時間」「信頼」を得られるのが、研究室やラボにおける整理収納のメリットと確信した正保さん。そんな正保さんの強みは、自分の経歴から蓄積された研究室やラボの整理収納の課題を知っているということ。
この課題をクリアすることで、「無駄なお金の節約になる」「無駄な時間の節約になる」「大事な研究データへの信頼性が高まる」ということを伝えたいと思い、出版を決意したと言います。これまでブログは書いてきたということですが、出版できるとは考えていなかったと言います。
ネットのようにバラバラではなく、
まとまりのあるものにしたかった
Q1 出版したいという想いはありましたか?
ありました。でも内容が研究業界というニッチな世界に生息する人向けで爆売れは見込めない。通常の出版形態ではまず無理だろうな、と思っていました。ブログやホームページでは情報発信していたのですが、ネットでは情報がきちんと体系化されてまとまっていません。ですから、いつかちゃんとまとまったものを残したいと考えていました。
私はアメブロ(Ameba Blog)でも書いているのですが、アメブロは主に自分を知ってもらうための情報発信です。日々の出来事やセミナー開催の告知などです。出版となると「自分のこと」より読む人にとって「役に立つこと」でないといけないと感じていました。そういう意味でも、ネットだけの発信では伝えたいことは伝わりにくいので、本という形にしたかったです。
自転車で大けがの直後
万事塞翁が馬⁉
Q2 Bookoを知ったときの感想は?
絶好のタイミングで Bookoのお話をきいてとても嬉しかったです。自転車で転んで右腕を骨折した直後、病室で手術待ちの時でした。腕が超人ハルクのようにパンパンに腫れ上がり、こんなんではしばらく実験も整理収納サポートもできない・・・と落ち込んでいました。
でもBookoを知っていきなり気持ちが前向きにシフトしました。お産の時以外、いちども入院や手術をしたことがなかったし、骨折も初めての経験で人生何がおきるかわからないと思いました。また現在の研究業務員の仕事は非常勤扱いで、あと2年で契約が終了します。そういう意味でもラボのテーマで書くなら、今が1冊に取り掛かれるチャンスだと感じました。
自分が困っているときに
こんな本があったらいいな
Q3 どのようにしてこの本のテーマを決めましたか?
研究現場でストレスを感じている人に、元気がでるようなことを伝えたかった。人は、同じ悩みをもった人がいるということで救われることもあるんじゃなかろうかと。自分が困っていたときにこういう本があったら買っていたと思います。
また、研究室には安全に関しては巡視があるけど、収納の中まではチェックできない。見ための汚れは指摘できても、整理は無理。専門の人ですら「これは不要ですね」とは言えないものがほとんどです。だから研究室には代々判断が先送りされてきた、使われていないものがいつまでも溜まりがちになります。
加えて、医学部の研究室だけでなく大学研究室はお金や人手が足りない。サポートスタッフが雇われていても朝から晩まで実験ということもある。経験したラボによりいろいろ違いがありましたが、整理整頓しているラボは実験しやすい。そういうところは内部のコミュニケーションが円滑だからいい環境が作れていると思い、『ラボ整理コミュニケーション術』というタイトルにしました。
完璧を目指さなくても
出してしまった方がいい!
Q4 1冊を書き終えて、どんな心境でしょうか?
「この本が誰かの役に立つといいなあ」という気持ちです。
文章は未熟ですが現役で研究現場にいる時の方が書けると思いました。仕上がりとしては生煮え感があるけど、伝えたかったことの切り口を見せることはできたかな。親が心身ともに弱ってきたこともあり、「やれるうちにやっておいた方が良い」かな、とも思いました。
書くのは大変ですが
次から次へとアイデアが
Q5 また本を作りたいと思いますか?
書くのは大変ですが、表紙ができて、形になっていくのを見るのは楽しいです。ネットに書くのとは違う充実感があります。次にチャレンジするとしたら、博物館の整理収納の仕方や公文書館の整理収納、大学の先生のオフィスの整理収納も取材させていただけたらチャレンジしてみたいです。
読者を想定して書く文章のお作法
編集アドバイザーはいた方がいい
Q6 Bookoのメリット・デメリットを教えてください
作る側にとってのメリットは、在庫を抱えなくてすむ、Amazonで販売される、受注生産なので紙の無駄がでない。デメリットとまでは言えないですが、買う側は、受注生産なので在庫がある本にくらべたら手元に届くまでに時間はかかると思われます。
*AmazonPODでも2~3日で読者に届きます
リクエストとしてはデザインのバリエーションがもっとたくさんあったほうがいいですね。これからもっと増えていくらしいので、楽しみです。
出版に関する一番の課題は、相談できるアドバイザーの有無だと思います。今回は編集者さんが伴走してくれましたので、安心できました。日常的に文章は書きますし、特にコミュニケーション不足を起こすことはありませんでしたが、本となると文章のお作法が違うのだなということがわかりました。
文章の基本ですが、漢字にするかひがらなにするか、用語の統一はどうするかなどです。初めて知ることも多かったです。あと、章立てやパラグラフの長さなどとても勉強になりました。自分の書きたいことを書くブログとは違いますので、やはり客観的な編集サポートがあるといいなと思いました。
*Bookoでは編集サポートサービスも今後検討します
ニッチなテーマの研究者や
独立研究者や在野研究者にすすめたい
Q7 どんな人にBookoをおすすめしたいですか?
稀少なテーマで研究している独立研究者や在野研究者におすすめしたいです。研究テーマがちょうど合うような学術専門誌がないけど、世の中の人に知ってほしい、と思うような研究成果があったら出版をおすすめしたいです。
読む側の立場では、まとまったものを読むときは紙の本のほうが便利だと思います。ネットのURLは変更になったり消えてしまって読めなくなったりしますが、とりあえず紙で持っていればまた読めますから。
今、一番困っている
ラボメンバーに読んでほしい
Q8 この本をどんな人に読んでもらいたいですか?
ぜひラボメンバーに読んでもらいたいです!片づく仕組みがない使いにくいラボで一番困るのは研究室の学生、大学院生、研究業務員、研究事務員という研究費を持たない人です。企業や国立研究所のラボでも若手研究員や派遣社員、研究業務員は困っている人がいると思います。
長年のキャリアの中から「誰かのために役立てたい」という想いを一冊の本に込めた正保美和子さん、ありがとうございました。